洋燈蔵:蔵書 No003
    『ランプ』                川上澄生著

『ランプ』 川上澄生 著(昭和28年・竜星閣刊・限定1000部)

本書は、詩人・版画家の川上澄生(かわかみすみお)の文と木版集です。そして川上澄生といえば文明開化や南蛮風俗に材をとった多彩な木版画であり、たとえばランプであり洋館であり馬車であり山高帽の紳士が描かれています。ランプの時代を彷彿とさせる文面と情緒を感じさせるランプの版画が満載の洋燈・ランプの世界魅了し、引き込まれる本です。       (初版、昭和15年・アオイ書房刊・限定500部)   (昭和52年、東峰書房刊、復刻版500部) 昭和52年にも東峰書房刊より復刻版(初版限定500部)か発刊されている。         また、本書以外にも「洋燈と女」(昭和40年・手彩色入墨摺木版画・限定50部)がある。

『ランプ』 川上澄生 著
昭和28年・竜星閣
刊 

         A

文明開化は黒船によってやつてきた。ご維新になると文明開化は大ぴらでやつて来た。陸蒸気は車窓の外の風景を眼が廻るやうに走らせた。それにも増して針金便りは早い。櫓時斗や尺時圭は舶来の袂時計となつて人々の懐のなかにおさまつた。「只今は何字時ですか」「西洋第九字時です」時計の文字板の羅馬数字を在来の刻限にあてはめた小冊子なども現はれた。そして頭には高帽子(ハツト)や平帽子(ケツプ)をかぶり手には洋傘(オンブレラ)を持ち足には靴をはいて紳士は馬車に乗った。この時文明開化は家庭にあつては洋燈の花を夜の闇の中に咲かせた。

         B

然り、洋燈は夜の華である。釣るし洋燈は天井からたれ下がって開花し、台洋燈は机上、卓上又は室内の至る所に開花し、柱にとりつけられて枝の先に花開いた如くあるのは背面に反射鏡を持つ洋燈である。洋燈が輝けば夜の闇黒は後退する。行燈や燭台の周囲にもやもやとにじんで居たうす暗がりは、洋燈に依つて完全に隣の室までに追いやられた。

            M

夕方近い街には点燈夫の先駆のやうに街燈や軒燈を掃除して歩く役の人があった。いでたちは点燈夫も同じこと、半ズボンに脚絆をはいて草履がけで必ず鍔のぐにやぐにやに垂れ下がつた古い中折帽を被り薄汚れた手拭を首に巻いて居る。そして脚立を肩にかけ、ひたひたと走り、街燈や軒燈のところで適当に脚立を拡げ或いはそのまま立てかける。それから幾足か脚立に登つて街燈や軒燈の中から洋燈を取り出す。馴れた手つきで火筒の中を油染みた布でえぐるやうに拭き、石油の足りない油壷には石油を満たし、洋燈の心をちよっとひねり、急いで脚立から下り、又脚立を担いで次の場所に駆けて行く。点燈夫はそれから来るのである。手提げ洋燈を持ってやはり脚立を担いでやって来る。針金の曲がった先につして居るのは艦楼切れに洋燈の火を移し、街燈や軒燈の中の洋燈の火筒の中に差し入れる。すると心が適当に出て居る洋燈は一時に花を開くやうに明るくなる。そして艦楼切れの火を吹き消すかと思うと、脚立から下りて又脚立を担いで先を急いで行く。横丁や路地から煮炊きの煙や匂いをなびかせると子供たちは急に里心がついて「あばよ、芝よ、金杉よ」とか「カエルがなくから帰ろ」とかお定まりの文句を口にして「人さらい」が恐ろしくなる。「人さらい」は夕もやに乗じてやつて来て子供をさらふのだ。だんだん暗くなると、家々に洋燈がともり街燈や軒燈は輝きを増して来る。

「日本橋瀧澤本店 宇都宮支店」

現在も宇都宮市で瀧澤硝子店として営業中であり5代目篠原基國までは交流がありました。

住所 栃木県宇都宮市曲師町5-2

店名 有限会社 瀧澤硝子店 

*左記画像 (有)瀧澤硝子店HPより引用

 

洋燈蔵  フォトギャラリ-

 

【あかり】

お知らせ及びお詫び

現在、フォトギャラリ-に掲載しております写真は、大門蔵内の仕分作業中のためまだ一部しかアップされておりません。作業が完了したものから順次アップして参りますので、大変に申し訳ございませんが全品掲載まではもう暫くお待ちください。 

詳しくは「善光寺大門蔵

大谷勝治郎氏の手紙
2023/04/23

「洋燈考」の著者大谷勝治郎氏からの手紙が、先日5代目篠原基國の遺品のなかから見つかりました。大谷勝治郎氏が長野オリンピック観戦に長野に来られた際に当店のウィンドウに目を止め突然来店をされました。翌春(1999年4月)ご丁重に下さった御礼のお手紙です。

詳細はこちら
洋燈蔵 蔵書:「洋燈考」

「洋燈考」大谷勝治郎著
大谷勝治郎氏落款

本著「洋燈考」は、洋燈、石油ランプの歴史・種類・体系を知るうえで貴重な一冊です。当HPでも多くのものを引用させていただいてます。

フォトギャラリー更新
2023/02/19

フォトギャラリー 2⃣あかり2-6 石油ランプの部品 

日本橋瀧澤商店 特注ホヤ
らっきょ型・涙型

大門蔵

大門蔵2階の藁俵を解体しましたら大量の日本橋瀧澤商店特注の店名入ホヤが出てきました。

フォトギャラリー
2⃣ あかり
2-6  石油ランプの部品

洋燈蔵
日本の洋燈の構造

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abn長野朝日放送「いいね!信州スゴジカラ」12月19日放送【書道のまち長野市篠ノ井の書在地】で当店所蔵の川村驥山扇揮毫「福喜受栄」額と貴重な驥山扇のプライベート8mmが当店元会長夫人のインタビューと供に放映されました。
 

看板&家宝
「川村驥山扇 揮毫」

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NHK「チコちゃんに叱られる」2月28日放送【石油ランプの秘密】で当店HPの石油ランプの資料が使用されました。